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「記憶と言語」

(書に宿る記憶の断片)




  最近、大手企業や教育機関などさまざまなところで外国語を耳にすることが多くなった。バイリンガルという聞こえの良い言葉もあるが、筆者の頭の中は常に日本語が渦巻いています。世界最強の共通語はジェスチャーであり、それに次ぐブロークンイングリッシュもなかなかのもんです。一生懸命に伝えようとしたら細部までとはいかないが結構伝わります。


ところで、最近「考えているときは日本語で考え、暗記するときは日本語を使って暗記している。これって言葉が違うとどのように異なってくるのだろう?言葉がなければ?」などと、ふと頭の中で想像してみることが多くなりました。


そのことは子供に触れる機会が増えるにつれ、さらなる強い疑問に変わりました。


たとえば、子供が言葉を使い始めた3歳ぐらい母親の腹腔内にいたときのことを正確に言葉にし、表現するといったことも珍しくないのです。言葉の存在すら知らない新生児以前の赤子が幼児期になり言葉を用いてその時のことを表現するのです。


すごいな、とただ驚くばかりです。


そこで今回「記憶」について考えてみました。



そもそも記憶とはなんなんでしょうか?


記憶とは過去の経験を保存し、後にそれを再現して利用する機能で、符号化(記銘)、貯蔵(保持)、検索(想起)の3段階からなります。では、記憶時間による分類をまずしてみましょう。


主に3種類に分類され、



①超短期記憶(感覚記憶):感覚情報貯蔵とも呼ばれ、見たり聞いたりしたことを、そのままの形でほんの数秒という短い時間だけ感覚器官に保持される記憶。視覚では1秒弱、聴覚では約4秒間保持されます。



②短期記憶:得られた情報(感覚記憶に入った情報)を符号化し、一般に十数秒から数分程度(数時間までという定義もある)、覚えている記憶。電話番号、住所のそら覚えなど。意識や注意で脳の中で感覚記憶から短期記憶に転送されますが、短期記憶の容量は小さく、転送の際に大部分が棄却されます。



③長期記憶:短期記憶より長くほぼ永続的な時間、脳内に残る記憶でその容量は大容量。初対面の人に名前を聞いても忘れるが大切な人の名前はしっかりと覚え、記憶として長期間保持される。これが長期記憶です。


短期記憶としてインプットされた情報が、繰り返されることで長期記憶へと定着していく。



次は記憶の再現方法に関する分類をしてみます。こちらは主に(長期)記憶は4種類に分かれており再現できるということで長期記憶に分類されます。



①エピソード記憶


個人の固有な体験や出来事についての記憶。「病気を患って痛くてたまらなかった」など記憶や思い出。その機能をつかさどる脳の部位は側頭葉の内側(海馬)



②意味記憶


学習によって得た知識、言葉の意味や世界の有り様についての記憶。例えば、辞書に載っている「意味記憶とは物事の共通認識や客観的・普遍的な事実に関する記憶。 カナダの心理学者タルヴィングが、「命題記憶」の1分類として「エピソード記憶」と対比させた概念。~(略)」といったような、言葉や事柄の意味を説明する記憶脳の部位は側頭葉外側



③手続き記憶


物事を行うときの手順についての記憶。車を運転したり、楽器を演奏するなど、無意識に


毎日繰り返しているといった、身体で覚え身体で表現するような記憶。部位は小脳。



④プライミング


無意識の記憶、先にとり入れた情報(先入観)が後にとり得れた情報に無意識に影響する記憶で「入れ知恵記憶」。「ほうれそんう」と書いてあるのにほとんどの人が「ほうれんそう」と誤って読んでしまいます。これも一種のプライミング効果です



①と②を合わせて宣言的記憶(陳述記憶)と呼ぶこともあり、「言葉やイメージで表現できる記憶」です。道案内をする際、道順を説明するときの記憶。いつも自分では無意識にしていることでも、いざ人に説明するとなると・・・。


それに対して③と④は非宣言的記憶と呼び「言葉で表せない記憶」として、一定の認知活動や行動の中で組み込まれた記憶で、経験のスキルとして用いられます。



以上が簡単ではありますが記憶の分類と説明になります。


長期記憶は膨大な記憶容量があり、何度も繰り返すことで一生忘れることのないスキルとなります。「昔取った杵柄」ということわざもあります。隠居の身になっても、ひとだび杵を握れば熟練の腕前を発揮し、若いころに訓練した腕は一生覚えているというのです。



人間が生きていくには想像以上の膨大な情報が必要で、またその蓄積の上でわれわれは生活を営んでいます。交通ルールなど生活上の公的規則、人間関係等の社会生活、自分を維持し続ける膨大な思い出、より表現力と豊かにするための芸術、生活を彩る食生活、挙げ出したらキリがありません。


では記憶と言語はどのようになっているのでしょうか?言語が無くても、記憶が出来るのだろうか?そして言葉なしで頭の中で思考をすることが出来ることが出来るのでしょうか?


答えは、思考も記憶もどちらも可能です。


言語が無くとも、先に挙げた子供の例のように、言語を持たない新生児の時の記憶をその数年後、言葉を手にすると簡単にアウトプットしてしまうのです。


ただ記憶を引き出すものはあくまでも言語です。「赤い」という事象を言語を持たずジェスチャーだけで表現することは誠に難しい。言語によって記憶はアウトプットされ、そしてまたその引き出された記憶によってさらなる言語が形成していくのです。第2外国語に関してもまったく同じです。記憶によって新しい言語の記憶が形成されていくという具合に。



つまり、より効率良く思考し、またより豊かな想像力の構築には言語が不可欠であり、その結果を他者に効率よく伝えるには、どうしても言語による記号化が必要なのです。我々人間は文字という言語記号を用いて数千年の時空を超えて事象を保存し他者に伝えることが出来るのです。


最近、kindle(キンドル)やiPad(アイパッド)などの電子書籍が紙媒体の書籍に代わって増えてきたのもあって、昔のように欲しい本を探しまわることもなくなりました。また同時に数百冊の本を持ち歩けるようになり、色鉛筆や付箋で印だらけの書籍を持参することも少なくなりました。


漫画と違い、活字しかない書物は想像力と推理力、言語力が必要になってきます。慣れていない人には少し抵抗があるかもしれません。しかし先人たちの記憶、創造者の思考に触れるには書籍はうってつけのツールです。媒体の良し悪しは人それぞれ感じ方は違うかもしれませんが、読書することに媒体の優劣はありません。これを機会に記憶の旅に出かけませんか?


筆者は最近「三匹のこぶた」を読みました。え?はい、子供用です。


 
 
 

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